さいたま市立中央図書館所蔵
2024/10/28 大宮図書館より借入
2024/11/06 読書開始
2024/11/08 読了、大宮図書館へ返却
ドナルド・トランプが米国大統領に再選されたこのタイミングで読了したのは偶然だったが、トランプ主義の意味するものを考えながら読み進めた有意義な読書となった。
著者が言う「新しい階級闘争」とは何か。
冷戦のあとにやってきたのは階級闘争であった。多くの欧米諸国では、企業、金融、政府、メディア、教育などの分野のエリートと、圧倒的多数を占める国内労働者階級のポピュリストとのあいだの階級闘争が大西洋の両側で同時に勃発している。左派対右派という古い対立図式は、インサイダー対アウトサイダーという新しい政治の二分法に取って代わられた。(P.40)
歴史をたどれば、まず上流階級たる経営者と労働者階級の激しい対立があった。しかし大恐慌や第二次世界大戦という危機にあたって上流階級は労働者階級と妥協する必要にみまわれ、権力と富を分かち合い、彼らと交渉を持つことを余儀なくされた。
しかし、
戦争がきっかけで結ばれた欧米民主主義諸国における階級間の平和条約は長続きしなかった。多くの上流階級の管理者(経営者)にとって、労働組合の幹部、郡町村レベルの政治家や宗教指導者といった労働者階級の[擁護者たる]護民官たちと権力や富や文化的権威を分かち合わなければならないというのは、後ろ手に縛られた縄が解かれるまでは、否応なく耐えなければならない屈辱であった。(P.96)
いつか復讐してやるぞ、労働者階級を打倒するぞという執念が、「テクノクラート新自由主義」として爆発するのだ。
労働者階級は、経営者エリートの上からの「革命」にあえなく敗北し、権力と富を失う。経営者エリートは、労働コストを削減すべく、生産拠点を海外に移し移民の受け入れを拡大していく。
抑圧された多数派たる労働者階級も黙ってはいなかった。それはポピュリズムとして出現するのだが、
欧米のポピュリズムは、政治現象としては目新しいものではない。それは、欧米の管理者(経営者)エリートが半世紀にわたって押しつけてきた上からのテクノクラート新自由主義革命にあらがってずっと続けられてきた下からの反革命である。何らかのかたちのポピュリストの運動が、あらゆる段階でテクノクラート新自由主義に抵抗してきた。しかし、富や権力や文化的影響力に乏しいせいで、ポピュリストたちは繰り返し敗北を喫し、疎外感と憤りを募らせていった。そうして、次の大火災の燃料となる乾いた木が堆積してきたのである。(P.125)
そしてこの燃料に火をつけてきたのが、トランプである。彼自身はエリート層の出身で富も知名度もありながら、ポピュリストたちの味方、同じ立場にあるふりをして権力を掌握していく。
以下、トランプに関する私見である。
トランプが虐げられた人々を救うための改革をしていくことは考えられない。それどころか彼自身が大きな権力となって彼が打倒したはずの権力エリートと同じふるまいをするだろう。そして確実に腐敗していく。裏切られた人々は反逆する。そしてトランプは人々を弾圧するだろう。トランプに打倒されたエスタブリッシュメントも反撃に出て、シビルウォーの地獄図となる可能性もある。
ただ救いは、トランプが軍を掌握していないこと(現時点では)。軍組織や安全保障そのものをコストセンターとしてしか見ない彼の態度は、軍組織にとっては不愉快極まりないだろう。平時においては、面従腹背だし、危急の場合はトランプ排除に動くに違いない。したがってトランプの化けの皮が剥がれ、国民が離反すれば、トランプも退場せざるを得ないだろう。
閑話休題。
さてその救いようのない現状に対する著者の「処方箋」だが、それは新たな「民主的多元主義」を構築することだという。
人種、民族、信条を問わず、国内の多数派である賃金労働者の政治的権力、経済的影響力、文化的影響力を大幅に強化するしかない。改革者は従来の選挙政治を補完するため、出自を問わずすべての労働者階級の市民を政治・経済・文化の各領域における意思決定に組み込み、全員がインサイダーとなれるように従来の制度を構築し直すか、新しい制度を建設する必要がある。
北米とヨーロッパにおいて民主的多元主義を再構築し、階級横断的な権力の分かち合いを認めること――それは困難であるが、喫緊の課題である。(P.252)
おいおい、お花畑だなあ…。こんなん、誰がやるの、できるの?
エリート階級もさ、トランプで少しは懲りたんじゃないのかな?基本的には治らないと思うけどもう昔のような無茶はしないんじゃないですかねえ。ただ、労働者も大人しくなっちゃだめだぜ。トランプがこけてもめげずに、暴れなければ今度は徹底的に潰されるって。もう人間じゃなくてもAIもロボットも働けるんだからさ。
とにかくどこかで折り合いつけようよ、ねっ。
(追)本書中、日本についての言及があるが「とんちんかん」な論考なので注意。