さいたま市立中央図書館所蔵
2024/09/11 大宮図書館より借入
2024/09/24 大宮図書館へ返却
周知のように、2020年芥川賞受賞作である。「芥川賞的な癖」がない平明な文体で読みやすかった。小説は平明な文体がよいと思う。
主人公の陽介は規則正しい、潔癖な生活を信条とする青年だが、不穏さを抱えており、タイトルから予感される悲劇が冒頭から予定されている。
急いでもう一度ベッドに戻った。仰向けになり、胸の上で両手の指をしっかりと組み合わせ、交通事故で死ぬ人間がいなくなればいいと思った。 働きすぎで精神や体を壊す人間がいなくなればいいと思った。 誰も認知症で子供の顔や名前を忘れたりしなくなればいいと思った。すべての受験生がこの春から望んだ学校に通えていればいいと思った。何かの夢に向けて努力している人間がいるなら、その夢が今日にでもまとめて叶えばいい。しかし祈った後で気づいたが、私は神を信じていない。私の願いなど、誰も聞いてはくれないだろう。(P.13)
一方、友人の膝と前カノの麻衣子は一見異常な設定をされるもいたって普通で通俗的である。陽介は現カノの灯と絡みながら「破局」へと進むわけだがその破局さたるやあまりにも小さすぎてこれでは破局ではなく、ちょっとした躓きなのでここまでのことだったのか、それともこれからが本当の破局なのかは私にはわからないのである。