さいたま市立大宮図書館所蔵
2024/09/16 大宮図書館より借入
2024/09/24 読書開始
2024/09/28 読了、大宮図書館へ返却
涙しながら読んだ。本文だけで589頁。読んでも読んでも終わらない。必死に読んで四日もかかってしまった。そしてその太宗はヨーロッパ中心主義的パースペクティブに対する断罪である。マルクス、ウェーバー、ブローデル、ウォーラーステインの全否定である、猛攻撃である。凄いぞ、この繰り言。なにしろかつての自分自身(A.G.フランク)さえも全否定しているのだから。
ここまで徹底してやらなければならないのは、おそらく著者がヨーロッパ人だからだろう。日本人の私ですら、近代における西欧の勃興と覇権、そして世界システムは小学生のころから叩き込まれてきたのだから。相当なインパクトで否定しなければこのこびりつきは洗い流せないだろう。
最も重要な問いは、ヨーロッパで何が起こったか、ではなく、それよりもむしろ、世界で何が起こったか、そして特にその先進地域であったアジアの部分で何が起こったか、ということである。私は、このずっとグローバルなパースペクティブから諸々の歴史的出来事をとりあげ、全体としての世界の中での「東洋の没落」とそれに付随する「西洋の勃興」の説明を提起する。以上の手続きによって、マルクス、ウェーバー、トインビー、ポランニー、ブローデル、ウォーラーステインほか、大部分の現代の社会理論家の反歴史/科学的な――全くイデオロギー的な――ヨーロッパ中心主義の足元をすくってやろうというわけである。(P.22)
これ、まだ22頁なんですけど、ずーっとこの調子なんです。
客観的な膨大な資料を駆使し、1500年以前はもちろん、1500〜1800年までにおいてもアジア(中国、インド、西アジア)が「世界システム」の主役であり、ヨーロッパはほんの脇役でこの「世界的カジノ」に参加できたに過ぎなかったことを示す。それもヨーロッパが参加できたのはアメリカ「発見」に伴う銀の獲得であり、それは当時の「世界システム」が銀本位制であったゆえにそれは偶々のことであったのだという。ヨーロッパがアジアに提供できる満足な製品・商品は銀以外になかったのである。
このアメリカからの貨幣がなければ、ヨーロッパは世界経済へのいかなる参入をも、ほぼ完全に排除されてしまっていたであろう。ヨーロッパは、新しく収入と富の源泉を見つけたことで、ある程度域内の生産を増大させ、それはまた、ある程度の人口増加を支持することにもなった。それによって、十五世紀のヨーロッパは、十四世紀の破滅的な衰退から立ち直り始めたのである。(P.163)
それではなぜ、ヨーロッパは「(一時的に)勝った」のか? まずはアジアの衰退がある。富が流入し人口も経済規模も増大していたアジアでは、経済格差が拡大し、安価な労働力を提供する人口が増大するとともに、全体としての購買力は停滞し結果として有効需要の収縮がはじまる。その間隙をヨーロッパが突いた。
ヨーロッパでは、海外からの流入を含む資本の入手可能性と並んで、賃金と需要は相対的に高く、それによって、労働節約的技術への投資は、合理的かつ可能となっていた。動力発生的な業種についても、同様の議論を立てることができる〔…〕ここで論ずるべきことは、ヨーロッパと中国、インド、およびその他のアジア諸地域間の、世界経済における市場競争が、労働節約的・動力発生的技術を、ヨーロッパ人にとっては経済的に合理的なものとし、アジア人には、そうでないものにしたということである。(P.504-5)
これがいわゆる「産業革命」というやつかあ。アジアは恵まれすぎて、「産業革命」みたいな面倒なことをしなくてもやっていけた。だけどヨーロッパには「これしかなかった」。
動力発生装置の発明が全てを効率化し、より多くより早く、そして軍事による征服と植民地経営がもたらす新たな莫大な富がアジアから還流していくのである。ヨーロッパがアメリカから収奪しアジアに献上した富よりももっと多くの富が還流していくのである、ヨーロッパそしてアメリカに。
追:それにしても大著過ぎるぞ。300頁くらいでちょうどいい。あと「コンドラチェフの循環」による説明は、ちょっと?でしたねえ。